大型観光キャンペーンと観光地・那須の将来について
1ヶ月ちょいぶりのブログ更新です。
ここのところフッと気持ちが切れた感じがして、ちょっとお休みしてしまいました。少しずつ書いて行きますので、どうぞお付き合いくださいませ。
さて今回は、これまで観光振興の仕事をして来た中で感じたこと、考えたことを書こうと思います。
日本全国総観光地化してる
20年近く那須の観光関係に関わり、7年半ほど観光振興の仕事をして来ましたが、最近その取り組み方が変わってきたと感じます。
東日本大震災以降の変化は著しいです。当初は震災によって観光客入込み数が大きく減ってしまったのを、どうすれば元に戻すことができるかが重要でした。那須の安全・安心を全面に出し、これまで那須に来ていた人を呼び戻すことに取り組みました。また、減ってしまった首都圏からのお客様を補うために新しいターゲットゾーンとして東北方面へPRを仕掛けました。東北方面へPRを始めてみると予想以上に良い反応で、特に福島や宮城でPRイベントを行うと「那須に行きます!」と声を掛けてくれるお客様がたくさんいて、実際に観光施設や道の駅で車のナンバープレートによる調査をすると福島、宮城からの来訪者が以前と比べて格段に多くなっていました。
かつて黙っていても首都圏から観光客が来たという那須の状況は、(本当はそれまでも危機感がなかっただけだと思うけど)震災を機にすっかり変わったと思います。
2年程過ぎる中で日本全体の観光動向が少しずつ変わってきました。その理由のひとつはSNSの発達にあると思います。
それまで情報誌やテレビなどのマスメディアを通してしか知り得なかった「行ったことのない場所」についての情報が、SNSを通して誰もが多くの「口コミ」情報を入手できるようになったこと。そうなると、これまでメディアには取り上げられなかったような地方の町の絶景とか、魅力的な人とか、体験できるコトなどの情報がSNSの波に乗ってどんどん発信されるようになり、少しでも珍しいことや人が知らない場所を個人的にスクープして、それに反応する人が多くなればなるほどSNSは発展していきます。
個人のレベルであったSNSを自治体や企業などが活用するようになると、日本全国総観光地化するのはあっという間。今では毎日のように、SNSの情報を頼りに地方の小さな町に人がたくさん行くようになったという話しが伝えられています。
SNSでの情報を上手く活用して策を講じること、実際に来た人の期待を裏切らない受入れ態勢を整えること、その必要性に田舎も都会も違いはありません。
昨今の主な客層である中高年層にはネットを使わない人も多いと言う人もいますが、最近ではSNSの情報を元に旅行雑誌やテレビの旅番組等が作られることも多いので、ネットを使わない人たちがキャッチする情報にもSNSの影響は大きいと言えます。
那須も単に「震災前に戻す」などと言っている場合ではなく、新しい視点で全国と競争しなくてはなりません。那須の魅力をきちんと捉え、伝えて、選ばれる観光地にならないと将来やっていけなくなる、ということです。
そういう中で決まったのが、2018年の大型観光キャンペーン「栃木デスティネーションキャンペーン」でした。
栃木DC(ディーシー)ってなに?
「デスティネーションキャンペーン」は略してDC(ディーシー)と呼ばれ、JRグループが四半期毎に地域を決めて大々的にPRを行う観光キャンペーンです。対象となった地域は主に自治体が中心となって総力を挙げてキャンペーンを作り上げます。JRはグループ全体で車内広告や駅張りポスターなどのPR協力はもとより、観光コンテンツの磨き上げの手伝いをしてくれるというものです。
栃木県は今年2018年4月から6月に「栃木デスティネーションキャンペーン」を開催しました。前年同時期を「プレDC」、翌年同時期を「アフターDC」として3年通しで行うので、来年2019年4月〜6月が「栃木アフターDC」ということになります。
栃木県庁の観光部署を中心に各市町や各観光協会、宿泊施設やレジャー施設のほか多くの観光事業者、地域の人々まで巻き込んで、栃木県内の各地域の観光資源の見直し、掘り起こし、磨き上げを行い、これを機にお客様に提供する具体的方法を開拓し、その成果を将来へ繋げて行こうという取り組みが行われました。
栃木県はJR東日本管内ですが、JRだけでなく東武鉄道などの交通事業者、JTBなどの旅行会社等、普段ライバルであるはずの多くの企業も参加して、官民一体となって本当に大きな動きによって実施されました。日光鬼怒川を走るSL大樹の運行や足利フラワーパーク駅の新設などもDCをきっかけとした中で生まれたもののひとつだと思います。
那須町ではDCをきっかけに「那須らしい楽しみ」を磨き直そうと考え、素材の洗い出し、提供の仕方、さまざまな連携などを検討。那須ロープウェイの夜間運行や夜のいちご狩り、日光と那須をむすぶバス、那須の食や体験大集合イベント、スイーツ&パン スタンプラリーなど、関連事業を含めると28項目に及ぶコンテンツがラインナップされました。
写真:2018年 4〜6月 「大人のいちご狩り」
那須にとって今回のDCの一番の収穫は、那須の人たちがもう一度考え、新しい発想の芽を生み、ブラッシュアップしたコンテンツを実際に提供する、という一連の流れを実践出来たことだと思います。いつだって出来たことなのかもしれません。でも、実際には何かきっかけがないとなかなか出来ないし、そのきっかけの輪の中に観光事業者だけでなく、ボランティアガイドの人たちや地域のイベント関係者など多くの人が入ってくれて、連携して動けたことは大きな成果だと思います。
DC期間中に観光客が何人増えたかとか売上がどうだったかとか、それも大事ではありますが、地域の人たちが一緒になってお客様のために何が出来るかを考え行動したことは、直ぐに結果は出ないかもしれないけれど必ず将来に繋がると感じます。
写真:2018年 6月 「芦野田植えまつり」田植え体験
大切なのは本質を伝え、きちんと提供すること
受入れる側は「多くの観光客」に来て欲しいと思うけれど、訪れる人(お客様)にとっては「その人だけ」の大切な旅...。当たり前のことだけど忘れがちです。
DCであろうとなかろうと那須で楽しく過ごしたいし、そもそもDCの意味も、開催されているかどうかも、何が特別なのかも、お客様にとっては関係のないこと。那須が楽しそうだから行く、思った以上に楽しめたからまた来る...。ちゃんと発信できて、ちゃんと提供できるかだと思います。
コチラ側にとってDCは、「いつも以上に宣伝できる」「特別なことを提供する」の両方をいっぺんに出来るスゴイ企画だけど、こんなにお金も労力もかかることをずっとやり続けることは不可能だし、JRのDCはもう当分の間は栃木県には来ないだろうし...。だからと言ってDCが終ったら元の木阿弥じゃあツマラナイ!
DCで培ったことを発展させた例として那須ロープウェイの「七夕ロープウェイ」と「早朝ロープウェイ」があります。「那須ロープウェイ夜間特別運行〜ムーンライト・スペシャルナイト」を開催して、たとえ月が見えなくても(開催した5回とも月は出ず...)その時間にその場所にいるという特別なことを喜んでくれるお客様を見て那須ロープウェイの会社が独自に始めてくれました(それまでは、夜にロープウェイを動かすなんて考えられないことだったのです)。
「七夕ロープウェイ」のビアガーデンは最高の雰囲気、「早朝ロープウェイ」では素晴らしい雲海を見ることができます。天候に左右されることや宣伝不足など課題はありますが、こうした動きは正にDCの成果だと思います。
写真:2017年 7月 「七夕ロープウェイ」ビアガーデン
いつだって大切なのは、
「本質を伝えること」
〜どこかへ出掛けようと思っている人に那須を選んでもらうための情報を伝える
〜たくさんあるSNS情報の中で那須に気づいてもらうための情報を伝える
「きちんと提供すること」
〜せっかく那須に来てくれた人の期待を裏切らないものを提供する
〜満足度を高め、また那須へ来ようと思ってもらえるものを提供する
那須の人たちがDCで体験した情報発信とコンテンツの提供を繰り返し行っていくことが、本当の財産となるように...。
奇しくも来年の「アフターDC」は、平成から新しい年号に変わる時期と重なっています。ロイヤルリゾートとうたう那須の本領を発揮できるか、楽しみにしたいと思います。
将来も選ばれ続ける観光地・那須になって欲しいと思うのです。